用語集

機会創造フレームワーク

エフェクチュエーション・ブリコラージュ・コーゼーションの三概念を不確実性と資源希少性の二軸で統合した分析枠組み。Welter・Mauer・Wuebker(2016)が提唱し、起業家的行動を単一理論で説明する限界を超えた包括的な視座を提供する。

目次

きかいそうぞうフレームワーク

Opportunity Creation Framework機会創造理論起業家的機会創造行動モデル統合フレーム

定義

機会創造フレームワーク(Opportunity Creation Framework)とは、起業家研究の三つの主要な行動理論——エフェクチュエーション・ブリコラージュ・コーゼーション——を統一的な概念的枠組みの中に位置づけたモデルである。

Welter, Mauer & Wuebker(2016)が Strategic Entrepreneurship Journal 誌に発表した “Bridging Behavioral Models and Theoretical Concepts: Effectuation and Bricolage in the Opportunity Creation Framework”(vol. 10, pp. 5–20)において提唱された。三概念の相互関係を「不確実性の水準」と「資源希少性の水準」という二軸で整理し、起業家がどの行動ロジックをどの状況で採用するかを説明する。


背景:三つの理論を別々に使うことの限界

Fisher(2012)の問題提起

Greg Fisher(2012)が Entrepreneurship Theory and Practice 誌(vol. 36, no. 5, pp. 1019–1051)で行った実証研究は、エフェクチュエーション・コーゼーション・ブリコラージュの三つが起業家行動の中で同時に、または順次観察されることを示した。6つの新規事業のケーススタディを分析したFisherは、現実の起業家が単一の行動ロジックに固定されているのではなく、文脈に応じてこれらを動的に切り替えていることを発見した。

この知見は重要な問いを提起する。三つの理論はそれぞれどのような役割を担い、どのように補完・代替し合っているのか。

Welter et al.(2016)はこの問いに対し、機会創造(Opportunity Creation)という理論的概念を軸として三者を統合する枠組みを構築した。


三概念の整理

コーゼーション:目標から手段へ

コーゼーション(Causation)は、明確な目標を設定し、その目標達成に最適な手段を選択するロジックである(Sarasvathy, 2001)。市場調査・競合分析・事業計画がこの論理を具現化する。環境の予測可能性が高い状況でその効力を発揮する。

エフェクチュエーション:手段から可能性へ

エフェクチュエーション(Effectuation)は、手持ちの手段(Who I am / What I know / Whom I know)から出発し、取りうる行動と生み出しうる可能性を探索するロジックである(Sarasvathy, 2001)。目標は固定されておらず、ステークホルダーとのコミットメントを通じて動的に形成される。不確実性が高く、最終目標が事前に特定できない状況に適合する。

ブリコラージュ:手元の素材から新しい解を

ブリコラージュ(Bricolage)は、既存の制約内で手元にある資源を創造的に再結合することで、新たな問題解決策や価値を生み出す行動パターンである(Baker & Nelson, 2005)。Lévi-Strauss(1962)の「野生の思考」に起源を持つこの概念は、資源が極度に希少な状況での起業家的適応を記述する。


フレームワークの構造:二軸マッピング

Welter et al.(2016)は三概念を以下の二軸で整理する。

説明
不確実性の水準(Uncertainty Level)環境の予測可能性が高い(低不確実性)〜低い(高不確実性)
資源希少性の水準(Resource Scarcity Level)資源が豊富(低希少性)〜極めて希少(高希少性)

この二軸でつくられる四象限に、三つの行動ロジックが以下のように位置づけられる。

低不確実性・低資源希少性 → コーゼーション優位 目標が明確で、必要な資源を調達できる環境。計画に基づく意思決定が合理的に機能する。既存企業の新製品開発ライン、M&A後の事業統合などが典型的状況だ。

高不確実性・低資源希少性 → エフェクチュエーション優位 未知の領域に踏み出すが、動員できる手段はある程度保有している。熟達した起業家が新しい市場を手探りで創造する場面がこれにあたる。Sarasvathyが観察した「エキスパート起業家」は、この象限で最もエフェクチュアル・ロジックを発揮する。

低不確実性・高資源希少性 → ブリコラージュ優位 目的はある程度明確だが、正式な資源がない。小規模起業家・社会起業家・途上国の起業家が日常的に直面する状況だ。手元の素材を転用・組み合わせることで機能する解決策を作り出す。

高不確実性・高資源希少性 → ハイブリッド行動 最も過酷な条件。この象限では、エフェクチュエーションとブリコラージュが組み合わさった行動が観察される。Welter et al.(2016)はここに機会創造の最も肥沃な土壌があると論じる。


エフェクチュエーションとブリコラージュの関係

フレームワークの中核的な貢献の一つは、エフェクチュエーションとブリコラージュの関係を精緻化したことだ。

Welter et al.(2016)によれば、エフェクチュエーションは包括的な意思決定ロジックであり、ブリコラージュはその中の戦術的メカニズムとして機能する。すなわち:

  • エフェクチュエーションは「どのような論理で行動するか」を規定する(上位レベル)
  • ブリコラージュは「具体的にどのように資源を動員するか」を規定する(実行レベル)

エフェクチュアルな起業家が手持ちの手段から出発する時、その「手持ちの手段」を最大限に活用する具体的な行動がブリコラージュだ。両者は競合するのではなく、異なる記述レベルで相補的に機能する。

Fisher(2012)が指摘したように、現実の起業家は純粋に一つの理論に従って行動しているわけではない。機会創造フレームワークは、この混合的・動的な行動パターンを説明する理論的基盤を提供した。


機会の「発見」vs「創造」:パラダイムの差

機会創造フレームワークが「機会創造(Opportunity Creation)」という用語を軸に据えているのは、起業研究の基本的なパラダイム論争への回答でもある。

Alvarez & Barney(2007, 2010)は起業研究における機会の性質について、「機会発見(Discovery)論」と「機会創造(Creation)論」の対比を明確にした。

機会発見論では、機会は客観的に存在しており、起業家がそれを見つけるかどうかの問題だ。Kirzner(1973)が記述した「注意深さ(Alertness)」がこの文脈で機能する。コーゼーション的な市場調査はこの論理と親和的だ——存在する市場機会を体系的に探索する。

機会創造論では、機会は起業家の行動によって生み出される。Sarasvathy(2001)のエフェクチュエーション理論は明確に機会創造論に立ち、ステークホルダーとの相互作用を通じて市場と機会が同時に形成されると主張する。

Welter et al.(2016)のフレームワークは機会創造論の立場を取りながら、その創造プロセスにエフェクチュエーションとブリコラージュの双方が貢献すると論じる。


動的な切り替え:成長フェーズとの関係

Fisher(2012)の実証研究が明らかにしたもう一つの重要な知見は、起業家の行動ロジックが起業プロセスの段階に応じて移行するという点だ。

初期段階では、資源が乏しく目標も不明確なため、ブリコラージュとエフェクチュエーションの組み合わせが観察される。事業が成長し、資源が蓄積され、環境への理解が深まると、コーゼーション的な要素が増加する傾向がある。

この動態は、Baker & Nelson(2005)が指摘したブリコラージュの罠(Bricolage Trap)とも関連する。初期生存には有効なブリコラージュが、組織が成長段階に入ると「妥協の蓄積(Accumulation of Compromises)」を引き起こし、スケーリングを阻害するリスクがある。

機会創造フレームワークは、この段階的移行を理論的に説明するための座標軸を提供する。起業家は二軸(不確実性・資源希少性)上の自社の位置を意識することで、採用すべき行動ロジックを適切に選択できる。


戦略的含意:どの行動ロジックをいつ使うか

機会創造フレームワークは「どれが正しいか」ではなく「どの状況でどれが機能するか」という実践的問いに答える。

スタートアップ初期 不確実性・資源希少性ともに高い。エフェクチュエーションとブリコラージュのハイブリッドが有効。固定した事業計画よりも、手持ちの手段から行動を開始し、ステークホルダーとの対話を通じて方向性を形成する。

PMFを経た成長期 一定の製品市場適合が確認され、資源調達が可能になってきた段階。エフェクチュエーションは維持しながら、一部のオペレーションにコーゼーション的な計画性を導入する。採用・財務予測・マーケティング計画にこの移行が現れる。

大企業内新規事業 資源は豊富だが制度的制約が多い。コーゼーション的な要求(KPI、稟議、ゲートレビュー)と格闘しながら、ブリコラージュ的な資源転用と、エフェクチュエーション的な社内ステークホルダーへのコミットメント構築を組み合わせる必要がある。


エフェクチュエーション理論との接続

Welter et al.(2016)の機会創造フレームワークが重要な理由の一つは、エフェクチュエーション理論の適用範囲と限界を明示的にした点にある。

エフェクチュエーションは高不確実性環境での意思決定ロジックとして有効だが、資源希少性が極端に高い状況ではブリコラージュとの組み合わせが不可欠だ。また、不確実性が低下し計画可能な段階に移行した組織においては、コーゼーション的アプローチへの移行が合理的になる。

この枠組みの中で、エフェクチュエーションの五原則——手中の鳥・許容可能な損失・クレイジーキルト・レモネード・パイロット——は「高不確実性・中程度以上の資源保有」という特定の象限での最適解として位置づけられる。


引用・参考文献

  • Welter, C., Mauer, R., & Wuebker, R. (2016). Bridging behavioral models and theoretical concepts: Effectuation and bricolage in the opportunity creation framework. Strategic Entrepreneurship Journal, 10(1), 5–20.
  • Fisher, G. (2012). Effectuation, causation, and bricolage: A behavioral comparison of emerging theories in entrepreneurship research. Entrepreneurship Theory and Practice, 36(5), 1019–1051.
  • Baker, T., & Nelson, R. E. (2005). Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage. Administrative Science Quarterly, 50(3), 329–366.
  • Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
  • Alvarez, S. A., & Barney, J. B. (2007). Discovery and creation: Alternative theories of entrepreneurial action. Strategic Entrepreneurship Journal, 1(1–2), 11–26.
  • Kirzner, I. M. (1973). Competition and Entrepreneurship. University of Chicago Press.

関連用語

エフェクチュエーション コーゼーション ブリコラージュ ナイト的不確実性 手中の鳥 許容可能な損失 クレイジーキルト