Glossary

用語集

エフェクチュエーションに関連する用語を五十音順で解説

エキスパート・アントレプレナー

Sarasvathyのエフェクチュエーション理論において、熟達した起業家経験を通じてエフェクチュエーション的思考様式を身につけた起業家を指す。初心者起業家との認知的差異が、理論の実証的根拠となった。

エフェクチュアル・アスク(Effectual Ask)とは?

エフェクチュエーション理論においてステークホルダーからコミットメントを獲得する際の対話技法。目的・相手・要求内容をあえて開放したまま始める「問いかけ」のアプローチ。

エフェクチュアル・サイクル

エフェクチュエーション理論における動態的なプロセスモデル。手中の手段からの行動、ステークホルダーのコミットメント獲得、資源の拡大と目標の再設定が循環的に進行する起業プロセスの概念。

エフェクチュアルロジック

Sarasvathyが提唱する、熟達した起業家に共通する意思決定の論理体系。因果推論(コーゼーションロジック)と対比される概念で、手持ちの手段から出発し、許容可能な損失の範囲内で行動する思考様式を指す。

エフェクチュエーション

熟達した起業家に共通する意思決定の理論。手持ちの手段から出発し、許容可能な損失の範囲で行動するアプローチ。Saras Sarasvathy が2001年に提唱。

エフェクチュエーションの同型性問題

Sarasvathy の提唱するエフェクチュエーション理論が起業家個人の意思決定パターンとして構築されたのに対し、組織・社会レベルでも同一の論理構造が成立するかどうかを問う概念。Read & Sarasvathy(2005)以降の組織エフェクチュエーション研究を軸に解説する。

エフェクチュエーションの同型性問題(Isomorphism)|制度的同型化への耐性

DiMaggio & Powell(1983)が提唱した制度的同型化(coercive / mimetic / normative の3類型)を踏まえ、Sarasvathy のエフェクチュエーションが模倣的・規範的同型化圧力への対抗論理としてどう機能するかを整理する。制度派組織論とエフェクチュエーションの理論交差点。

クレイジーキルトの原則

Sarasvathy(2008, pp.67–82)が定式化したエフェクチュエーション第4原則。パッチワークキルトの比喩で、戦略的選抜ではなく自発的にコミットしてくれるステークホルダーとの協力関係を優先する。市場が未定義の段階では競争ポジション分析より先に仲間を集めることが合理的と論じる。

コーゼーション

Sarasvathy(2001, p.245)が定義する、明確な目標を所与として最適手段を論理的に選択する因果論的意思決定アプローチ。SWOT・STP・ファイブフォースの思考基盤であり、既存市場では有効だが市場が未定義の段階ではエフェクチュエーションとの使い分けが求められる。

コーゼーション・エフェクチュエーション メタ意思決定

コーゼーションとエフェクチュエーションの「どちらを使うか」を選ぶ上位の意思決定。状況の不確実性・目標の明確性・資源制約を診断し、適切なロジックに切り替える認知スキル。Sarasvathy(2008)が「起業家的エキスパーティーズ」と呼ぶ核心にあたる。

ステークホルダー・コミットメント

エフェクチュエーションのクレイジーキルト原則の中核概念。ステークホルダーが自発的に参加を表明し、リソース・知識・ネットワークを提供することで、事業の方向性と可能性を共同で形成していく過程を指す。

ナイトの不確実性

確率分布すら推定できない真の不確実性。Frank Knight が1921年に定義した概念で、エフェクチュエーション理論の前提条件となっている。

ナイト的不確実性とエフェクチュエーション

Knight(1921)が定義した「測定不可能な真の不確実性」がエフェクチュエーション理論の認識論的基盤であることを解説する。リスクとの峻別、Keynesの「アニマル・スピリット」との関係、エフェクチュエーション5原則への接続まで、思想史的文脈を重視して論じる。

ナイト的不確実性とリスクの実務判別

Knight(1921)が峻別した「リスク(確率計算可能)」と「真の不確実性(確率計算不可能)」の違いを実務の意思決定に活かす方法。この区別がエフェクチュエーション的アプローチとコーゼーション的アプローチの使い分けを根底から規定することを解説する。

ブリコラージュ

手元にある限られた資源を組み合わせることで問題を解決・機会を創出する起業家的行動様式。Lévi-Strauss(1962)の人類学的概念を Baker & Nelson(2005)が経営学に導入した。エフェクチュエーションの「手中の鳥」原則と深く関連する。

プレコミットメント

エフェクチュエーションにおいて、ステークホルダーが事業の成否が不確実な段階で具体的なリソースを投入する約束をすること。クレイジーキルト原則の中核概念。

プレコミットメント戦略の実践ガイド

エフェクチュエーションにおけるプレコミットメント(事前コミットメント)の概念と実践法。ステークホルダーの自発的コミットメントを戦略的に引き出し、不確実性を縮減するクレイジーキルト原則の応用技術。

メイカブル・マーケット(Makeable Market):エフェクチュエーションによる市場創造の定義

市場は発見するものではなく、手段とパートナーの組合せを通じて起業家が創造するものだというエフェクチュエーションの市場観。Sarasvathyの中核的主張を表す概念。

レモネードの原則

Sarasvathy(2008, pp.51–66)が定式化したエフェクチュエーション第3原則。「レモンをレモネードに」の諺を起業家思想に転換し、真に予期せぬ出来事を事前リストアップできない伝統的リスクマネジメントの限界を超克する。コンティンジェンシーを機会として活用する認知フレームを示す。

意図的偶然性

偶然の出来事を待ち受けるのではなく、遭遇可能性を意図的に設計することで予期せぬ機会を創出する実践概念。キャリア研究のKrumboltz(2009)が提唱したHappenstance Learning Theoryを起点に、Sarasvathyのレモネード原則と統合的に理解される。

許容可能な損失

期待リターンではなく「失っても許容できる範囲」を基準に投資判断を行うエフェクチュエーションの原則。Affordable Lossとも呼ばれる。

許容可能な損失 vs 期待リターン:意思決定論の二項対立

Knight(1921)の不確実性論、Kahneman & Tversky(1979)のプロスペクト理論、Sarasvathyの認知プロセス・トレーシング実験を横断し、許容可能な損失と期待リターンという二つの意思決定ロジックの深層を解剖する。

共創(コ・クリエーション)

エフェクチュエーション理論における共創とは、起業家とステークホルダーが相互のコミットメントを通じて新たな市場・製品・価値を共同で形成するプロセスを指す。事前に設計された価値提供ではなく、関与する主体の協働から価値が創発する点が特徴。

手段ドリブン

Sarasvathy(2001; 2008)が定義する手中の鳥原則の行動様式。「Who I am / What I know / Whom I know」の3手段カテゴリを出発点とし、行動とステークホルダーの相互作用を通じて目標を事後的に形成する。目標から逆算するゴールドリブン(コーゼーション)と対置。

手中の鳥(Bird-in-Hand)の実践的活用法

エフェクチュエーションの手中の鳥原則を実践に落とし込む方法。WHO/WHAT/WHOMの3軸による手段の棚卸しから始める行動設計の実践ガイド。

手中の鳥の原則

目標から逆算するのではなく、手持ちの手段(Who I am / What I know / Whom I know)から出発するエフェクチュエーションの第一原則。

新市場創造

エフェクチュエーション理論における市場の捉え方。市場は「発見する」ものではなく、ステークホルダーとの相互作用を通じて「構築する」もの。Sarasvathy (2001)のエフェクチュアル・ロジックの核心概念。

生成的不確実性

エフェクチュエーション理論が前提とする不確実性の質。単に「未知」であるだけでなく、行動と相互作用によってその内容が変化し形成されていく不確実性を指す。

非予測的コントロール(Non-predictive Control):未来を予測せず制御する起業家の論理

予測に基づくコーゼーション的意思決定に対し、行動とコミットメントによって未来を直接形成するエフェクチュエーションの中核的論理。Sarasvathy(2001)が提示した概念。

飛行機のパイロットの原則

Sarasvathy(2008, pp.83–90)が定式化したエフェクチュエーション5原則の統合原則。Wiltbank et al.(2006)が示した「予測よりコントロール可能な変数への集中が合理的」という知見を体現し、天気予報士ではなくパイロットの比喩で非予測的コントロールによる未来創造を表現する。

不確実性の種類

リスク・ナイトリアン不確実性・真の不確実性の違いを定義し、エフェクチュエーション理論がなぜ「真の不確実性」に対処する理論として提唱されたかを解説する。意思決定フレームの選択に直結する重要な概念区分。

目標合致的リスク(Goal-Congruent Risk)

目標と整合した範囲でのみリスクを引き受けるエフェクチュエーション固有の認知枠組み。期待リターン最大化を前提とするコーゼーション的リスク評価とは根本的に異なる意思決定ロジックである。