人物

ディモ・ディモフ

ロンドン・ビジネス・スクールでPhDを取得した起業家研究者。機会確信(opportunity confidence)の概念を提唱し、起業家的プロセスを時間軸で捉える方法論を開拓。JBV InsightsのEIC(創刊編集長)を務め、effectuation.orgにも論文が収録されている。

目次
English
Dimo Dimov
肩書
Professor of Entrepreneurship and Innovation
所属
バース大学(University of Bath)School of Management
役割
研究者教授Journal of Business Venturing Insights 創刊編集長著者

起業を「行為」から「旅」として捉え直した研究者

起業家研究における長年の問題の一つは、研究方法論と理論の間の断絶にある。起業家精神を「プロセス」として語りながら、実証研究では点の観察に終始してしまう——この矛盾をジェフリー・マクマレン(Jeffery McMullen)と共に正面から論じたのがディモ・ディモフ(Dimo Dimov)である。

McMullen & Dimov(2013)は、起業家精神を単一の行為(act)としてではなく、時間の中で展開する旅(journey)として捉えることを提唱した。この論文はeffectuation.orgにも収録されており、エフェクチュエーション研究の文脈においても「起業プロセスをいかに研究するか」という方法論的問いへの貢献として参照される(McMullen & Dimov, 2013, Journal of Management Studies, 50(8), 1481–1512)。

ロンドン・ビジネス・スクールでの知的形成

Dimovはブルガリア出身の研究者である。ロンドン・ビジネス・スクール(London Business School)で起業家研究のPhDを取得し、博士論文では「経験の眼鏡——機会の実現、経験学習、人的資本(The Glasses of Experience: Opportunity Enactment, Experiential Learning, and Human Capital)」を研究した。

この研究が示すように、Dimovの関心の中心は起業家が機会をどのように認識し、解釈し、行動へと移すかという認知的・プロセス的な問いにある。市場や機会を静的な対象として捉えるのではなく、起業家との相互作用の中で動的に展開するものとして分析する姿勢は、エフェクチュエーション理論の問題意識と親和性が高い。

機会確信(Opportunity Confidence)の概念

Dimov(2010)が Journal of Management Studies 誌(vol. 47, pp. 1123–1153)に発表した「Nascent Entrepreneurs and Venture Emergence」は、起業家研究に「機会確信(opportunity confidence)」という分析概念を持ち込んだ論文として知られる。

機会確信とは、起業家が追求する機会の実現可能性についての「進化する判断」である。Dimovは、パネルデータ(PSED)の分析を通じて、機会確信が事業の誕生に正の影響を与えること、そして起業経験そのものよりも機会確信を経由した間接的効果が支配的であることを示した。

この発見は重要な含意を持つ。起業経験の多寡や計画の精緻さよりも、起業家自身が機会に対してどれだけ確信を持てるかが事業の立ち上がりを左右するという知見は、エフェクチュエーション理論の「手中の鳥」原則——目標から逆算するのではなく、手持ちの手段と感覚から出発する——と同じ認識論的地平に立っている。

「機会の捉えどころのなさ」への正直な問い

Dimov(2011)が Entrepreneurship Theory and Practice に発表した「Grappling with the Unbearable Elusiveness of Entrepreneurial Opportunities」というタイトルは、その内容の誠実さを象徴している。「起業家的機会の捉えどころのない性質を格闘しながら論じる」——この論文では、機会概念の定義と測定がなぜ研究者を悩ませ続けるのかを、先行研究の蓄積を丁寧に辿りながら論じた。

「機会は発見されるのか、それとも創造されるのか」というAlvarez & Barney(2007)の論争——発見論(discovery view)対創造論(creation view)——において、Dimovは一方的な断定を避けた。起業家の認知と行動の相互作用の中でこそ機会は意味を持つという立場であり、この姿勢はエフェクチュエーション研究の問題設定とも共鳴する。

Journal of Business Venturing Insights の創刊

Dimovは Journal of Business Venturing Insights(JBVI)の創刊編集長(Editor-in-Chief)を務めた。JBVIは起業家研究における短報・実験知見・方法論的貢献を主な対象とする査読誌であり、フラグシップ誌 Journal of Business Venturing の補完的位置づけを持つ。

研究の蓄積だけでなく、研究コミュニティの知識インフラの形成に関与してきた研究者——Dimovの仕事の射程はそこまで及ぶ。バース大学プロフィールに掲げられた著書のタイトル「The Entrepreneurial Scholar」は、研究者自身も知的探求の旅の途上にあるという自己認識を滲ませている。

主要論文(エフェクチュエーション研究との接点)

  • McMullen, J. S., & Dimov, D. (2013). Time and the entrepreneurial journey: The problems and promise of studying entrepreneurship as a process. Journal of Management Studies, 50(8), 1481–1512. ← effectuation.org収録
  • Dimov, D. (2010). Nascent entrepreneurs and venture emergence: Opportunity confidence, human capital, and early planning. Journal of Management Studies, 47(6), 1123–1153. ← effectuation.org収録
  • Dimov, D. (2011). Grappling with the unbearable elusiveness of entrepreneurial opportunities. Entrepreneurship Theory and Practice, 35(1), 57–81.