目次
- English
- Stuart Read
- 肩書
- 教授
- 所属
- IMD(国際経営開発研究所)
- 役割
- 研究者教授共著者教育者
理論を「教えられる形」に変えた実践者
エフェクチュエーション理論は Saras Sarasvathy が提唱した。しかしその理論が世界の教室に届いたのは、Stuart Read という共同研究者の貢献によるところが大きい。Read は単なる共著者にとどまらず、エフェクチュエーションの知見を教育可能なフレームワークに変換し、実証研究によってその有効性を検証し、世界中のビジネス・スクール教授にとって教えやすい形に整備した「実践の架け橋」としての役割を担ってきた。
経歴と研究環境
Stuart Read は、スイスのローザンヌに本部を置く世界有数のビジネス・スクールである IMD(International Institute for Management Development) の教授である。IMDは企業向けエグゼクティブ教育で特に高い評価を持ち、リーダーシップ開発・イノベーション・グローバル戦略を主要な研究・教育領域とする。
Read がIMDに在籍することは、エフェクチュエーション理論にとって重要な意味を持つ。IMDは学術研究と企業実務の橋渡しを重視する機関であり、Read はこの環境の中でエフェクチュエーション理論を「MBAの教室で教えられる実践的知識」へと精製する作業を継続してきた(Read et al., 2016, preface)。
Sarasvathyとの共同研究の経緯
Read と Sarasvathy の共同研究は、2000年代初頭に始まった。Sarasvathy が理論の基本フレームを構築した段階で、Read は実証的な検証とマーケティング研究への応用という観点から協力を開始した。
特に重要な共同研究として以下が挙げられる。
“Marketing under Uncertainty”(2009)
Read, Dew, Sarasvathy, Song & Wiltbank(2009)の論文 “Marketing under Uncertainty: The Logic of an Effectual Approach”(Journal of Marketing, 73(3), 1–18)は、エフェクチュエーション理論をマーケティング実践に接続した先駆的な研究である。
この論文は、不確実性が高い環境でのマーケティング意思決定において、従来のSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)アプローチに対する代替的なロジックとしてエフェクチュアルなマーケティングを定式化した(Read et al., 2009, pp. 1–5)。 「市場を探して見つける」ではなく「市場を共に作り出す」 という発想の転換は、マーケティング研究に対するエフェクチュエーション理論の最も重要な貢献の一つである。
メタ分析研究(2009)
Read, Song & Smit(2009)の “A meta-analytic review of effectuation and venture performance” は、エフェクチュエーション的な行動と事業成果の関係を定量的に検証した重要な実証研究である。複数の先行研究のデータを統合するメタ分析手法を用いて、エフェクチュエーション的な意思決定が事業パフォーマンスに正の影響を与えることを統計的に示した(Read et al., 2009, pp. 573–587)。
この研究の貢献は、エフェクチュエーション理論を「起業家の行動の記述」から「起業家の成果の説明」へと一歩進めた点にある。「熟達した起業家はこのように考える」という観察的な記述から、「このように考えて行動した起業家はより良い成果を達成する傾向がある」という規範的な含意へのステップを踏んだ。
『Effectual Entrepreneurship』の主要著者
Read は Effectual Entrepreneurship(Routledge, 2011年初版、2016年第2版)の筆頭著者として、Sarasvathy・Dew・Wiltbank・Ohlssonと共に教科書の設計と執筆を主導した。この教科書の教育的有効性の高さは、世界20カ国以上での採用実績に示されている。
Read が本書の設計において特に重視したのは「すべてのアイデアが演習問題を伴う」という構造原則である。エフェクチュエーションは行動の理論であり、読んで理解するだけでなく、 実際に手中の手段を書き出し、許容損失を計算し、ステークホルダーとの対話を設計する という実践プロセスを通じてのみ真に習得できる、という教育哲学が本書を貫いている(Read et al., 2016, introduction)。
IMDでの教育実践
Read はIMDにおいて、エグゼクティブ向けプログラムでエフェクチュエーション理論を教えてきた実践者でもある。MBA学生ではなく、すでに企業で豊富な経験を持つエグゼクティブに対してエフェクチュエーションを教えることは、独自の挑戦を伴う。
経験豊富なマネジャーは「計画→実行」という因果論的な思考様式を強く内面化している。この思考を「手段→目標」という方向に転換するには、単なる概念の説明ではなく、参加者自身の経験の中からエフェクチュアルなパターンを発見させる教育設計が必要である。Read のIMDでの教育実践は、エフェクチュエーション教育の方法論的洗練に継続的に寄与してきた。
エフェクチュエーション研究における貢献の全体像
Read の研究上の貢献を整理すると、以下の3つの柱が見えてくる。
実証化: Sarasvathy の理論的洞察を定量的な検証に繋いだ。メタ分析研究やマーケティング実証研究を通じて、エフェクチュエーション理論の実証的基盤を強化した。
教育化: 理論を教育可能なフレームワークに変換した。演習問題・ワークシート・ケーススタディを備えた教科書の構築が、世界中の教育現場でエフェクチュエーションが教えられる基盤を作った。
実務化: IMDでのエグゼクティブ教育を通じて、エフェクチュエーション理論を実際の企業経営者の思考と実践に組み込む取り組みを継続してきた。
Readの研究を深く学ぶために
Read の研究に入門するには、まず彼が筆頭著者を務めた Effectual Entrepreneurship 第2版(2016年)から始めることを勧める。この教科書は、Read の教育哲学と実証研究の成果が最も体系的に統合された著作である。
次のステップとして、Read, Dew, Sarasvathy, Song & Wiltbank(2009)の「Marketing under Uncertainty」論文を読むことで、エフェクチュエーションがマーケティング実践にどのように接続されるかの理解が深まる。そのうえで Sarasvathy(2008)の原著に進むと、理論の学術的な深みをより立体的に把握できる。
引用・参考文献
- Read, S., Sarasvathy, S., Dew, N., Wiltbank, R., & Ohlsson, A.-V. (2016). Effectual Entrepreneurship (2nd ed.). Routledge.
- Read, S., Dew, N., Sarasvathy, S. D., Song, M., & Wiltbank, R. (2009). Marketing under uncertainty: The logic of an effectual approach. Journal of Marketing, 73(3), 1–18.
- Read, S., Song, M., & Smit, W. (2009). A meta-analytic review of effectuation and venture performance. Journal of Business Venturing, 24(6), 573–587.
- Sarasvathy, S. D. (2008). Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise. Edward Elgar Publishing.
- Dew, N., Read, S., Sarasvathy, S. D., & Wiltbank, R. (2009). Effectual versus predictive logics in entrepreneurial decision-making: Differences between experts and novices. Journal of Business Venturing, 24(4), 287–309.