人物

S. ラマクリシュナ・ヴェラムリ

エフェクチュエーション理論の発展に貢献した起業家研究者。SarasvathyおよびDew・Venkataraman と共著した『Three Views of Entrepreneurial Opportunity』(2003)は、機会の発見・創造・形成という3分類でその後の起業機会論の枠組みを決定づけた。CEIBS(中欧国際工商学院)でも長年教鞭をとり、エフェクチュエーションの国際的な普及に寄与した。

目次
English
S. Ramakrishna Velamuri
肩書
教授・学部長
所属
マヒンドラ大学(Mahindra University)経営大学院
役割
研究者教授学部長共著者

起業機会をどう分類するか——理論を整理した研究者

エフェクチュエーション理論の核心は、不確実性下での意思決定ロジックの解明にある。しかし「そもそも起業家が対処する『機会』とは何か」という問いには、Sarasvathy を含む研究者たちがさまざまな立場から答えを示してきた。その問いに対して体系的な整理を与えたのが、S. ラマクリシュナ・ヴェラムリ(S. Ramakrishna Velamuri)がSaras Sarasvathy、Nicholas Dew、S. Venkataraman と共著した “Three Views of Entrepreneurial Opportunity”(2003)である。

この論文は、起業機会に関する先行研究を「発見(discovery)」「創造(creation)」「形成(formation)」という3つの視点に整理し、それぞれの認識論的前提の違いを明示した。このフレームワークはその後の起業機会論に広く参照され、エフェクチュエーション理論が「機会の形成」という立場に対応することを明確にした(Sarasvathy et al., 2003, pp. 141–143)。

経歴と研究環境

ヴェラムリはマドラス大学で商学士(1983年)を、スペインのIESEビジネススクールでMBA(1985年)を取得した後、バージニア大学ダーデン・スクール・オブ・ビジネスで博士号を取得した(2003年)。博士課程ではSaras SarasvathyやS. Venkataraman の知的環境に深く浸る機会を得た。

その後、IESE ビジネススクール助教授、そして**中欧国際工商学院(China Europe International Business School, CEIBS)の戦略・起業家精神学科教授兼学科長を歴任した。CEIBSでは、エフェクチュエーション理論を含む起業家研究と事業創造の教育を中国・アジア地域に広める役割を担った。現在はマヒンドラ大学(Mahindra University)**経営大学院の教授・学部長として活動している。

“Three Views of Entrepreneurial Opportunity” の貢献

Sarasvathy, Dew, Velamuri, Venkataraman(2003)が Handbook of Entrepreneurship Research(Kluwer Academic Publishers)に収録した “Three Views of Entrepreneurial Opportunity” は、起業機会論の地図を描いた論文として位置づけられる。

3つの視点の整理

  • 発見(Discovery)ビュー: 機会は客観的に存在し、探索によって発見される。Kirznerian な「アービトラージ機会」がその典型。機会は起業家の行動以前にすでに市場に存在する
  • 創造(Creation)ビュー: 機会は起業家の行動によって初めて生まれる。Schumpeterian な「創造的破壊」に対応。環境は所与ではなく、起業家が積極的に変容させる
  • 形成(Formation)ビュー: 機会は起業家とステークホルダーの相互作用を通じて共同で形成される。エフェクチュエーション理論が対応するのはこの立場であり、機会は探索されるのでも単独で創造されるのでもなく、交渉的なプロセスで徐々に輪郭を持つ(Sarasvathy et al., 2003, pp. 143–155)

この分類は、起業家研究者が「どのような機会観に立って研究を設計しているか」を明示化するための概念的ツールとして機能し、その後の国際的な起業家研究において広く引用されることになった。

エフェクチュエーション理論の発展における役割

ヴェラムリの貢献は、起業機会論の整理にとどまらない。Sarasvathy を中心とするグループとの共同研究を通じて、エフェクチュエーション理論の認識論的基盤——「目標は手段から事後的に形成される」「不確実性は制御によって対処する」——が社会構成主義的な機会観とどのように接続されるかを理論化する作業に参与した。

とりわけ「機会の形成ビュー」を明示化したことは、エフェクチュエーション理論が「機会発見論」(市場の非効率を利用するアービトラージ)とも「機会創造論」(起業家の個人的な行動の産物)とも異なる、対話的・共構成的なプロセス観に立っていることを明確にした点で重要な貢献である。

倫理・ステークホルダー論との接続

ヴェラムリの研究は起業機会論にとどまらず、企業倫理とステークホルダー理論へも広がっている。特に「起業家の倫理的行動がステークホルダー支持の動員にどのように影響するか」という問いは、エフェクチュエーション理論が強調する「ステークホルダーの自発的なコミットメント形成」とも深く結びつく。

信頼を基盤とした対話から生まれるネゴシエイテッド・コミットメントは、倫理的な相互作用の累積によって形成される。その意味で、倫理的な振る舞いは規範的な要請であるのと同時に、クレイジーキルト原則を実際に動かすための実践的な条件でもある。

主要著作・論文へのガイド

起点はSarasvathy et al.(2003)の “Three Views of Entrepreneurial Opportunity” だ。機会の3分類とエフェクチュエーションの位置づけが一望できる。その上でSarasvathy(2001)の Academy of Management Review 論文——エフェクチュエーション理論の原典——に当たると、機会の「形成ビュー」が理論全体のどこに接続されるかが具体的に見えてくる。ここまでを踏んだ後に Effectual Entrepreneurship(Read et al., 2016)を読むと、理論が教育可能な形にどう変換されたかを自分の目で確認できる。


引用・参考文献

  • Sarasvathy, S. D., Dew, N., Velamuri, S. R., & Venkataraman, S. (2003). Three views of entrepreneurial opportunity. In Z. J. Acs & D. B. Audretsch (Eds.), Handbook of Entrepreneurship Research (pp. 141–160). Kluwer Academic Publishers.
  • Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
  • Sarasvathy, S. D. (2008). Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise. Edward Elgar Publishing.
  • Read, S., Sarasvathy, S., Dew, N., & Wiltbank, R. (2016). Effectual Entrepreneurship (2nd ed.). Routledge.