人物

スコット・シェーン

「個人-機会連結(Individual-Opportunity Nexus)」フレームワークでアントレプレナーシップ研究を再定義したサンカラン・ベンカタラマンとの共著論文(2000)で知られる起業家研究者。機会の客観的発見論を展開し、エフェクチュエーションの機会創造論との重要な理論的緊張をつくり出した。Global Award for Entrepreneurship Research(2009年)受賞。

目次
English
Scott A. Shane
肩書
教授
所属
ケース・ウェスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)ウェザーヘッド経営大学院
役割
研究者教授受賞研究者

「起業機会」という概念を研究の中心に置いた研究者

起業家研究の歴史に「前」と「後」をつくった論文がある。Scott A. Shane と Sankaran Venkataraman がAcademy of Management Review, 25(1), 217–226(2000年)に発表した「The Promise of Entrepreneurship as a Field of Research」である(Shane & Venkataraman, 2000)。

この論文以前、アントレプレナーシップ研究は「起業家という人物」に焦点を当てる心理学的アプローチと、「企業の生存・成長」を追う経済学的アプローチに分断されていた。Shaneとベンカタラマンはこの分断を一つのフレームワークで橋渡しした。「起業機会」と「それを追求する個人」の連結(nexus)こそが、起業家研究固有の探求領域だという主張である。

エフェクチュエーション理論の提唱者であるSaras Sarasvathyは、ベンカタラマンの指導を受けたカーネギーメロン大学出身者である。Shaneはその知的環境の中で、Sarasvathyとは異なる機会論を展開した研究者として、エフェクチュエーション研究の重要な対話相手となった。

経歴

Shaneはペンシルバニア大学ウォートン・スクールで博士号(PhD)を取得した後、メリーランド大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ジョージア工科大学を経て、現在はケース・ウェスタン・リザーブ大学ウェザーヘッド経営大学院で「A. Malachi Mixon III Professor of Entrepreneurial Studies」として起業家研究と経済学を担当する。

94本以上の査読付き学術論文と16冊以上の著書・編著書を持ち、Management ScienceAcademy of Management JournalAcademy of Management ReviewStrategic Management Journal など主要経営学誌に掲載されてきた。2009年には起業家研究の最高峰であるGlobal Award for Entrepreneurship Researchを受賞している。

Shane & Venkataraman(2000)の核心

個人-機会連結フレームワーク

Shane & Venkataraman(2000)が定式化した「個人-機会連結」フレームワークは、三つの問いを起業家研究の根幹に据えた。

第一に、なぜ、いつ、どのような機会が存在するのか。機会は市場の不均衡、技術革新、制度変化などの外生的ショックによって客観的に生じるという立場をこの論文は採用した。第二に、なぜ特定の人物だけが機会を発見するのか。先行知識(prior knowledge)と認知的警戒(cognitive alertness)において異なる個人が、同じ市場変化から異なる機会を知覚する。第三に、なぜ特定の機会追求形態が選ばれるのか

この三問構造は、起業家研究に整然とした理論的骨格を与えた。今日の引用数は数千件を数え、アントレプレナーシップ研究における最も影響力のある論文の一つである。

機会の客観性という前提

Shane & Venkataraman(2000)、そして Shane(2003)の A General Theory of Entrepreneurship: The Individual-Opportunity Nexus(Edward Elgar)が一貫して維持したのは機会の客観的先在性という仮定である。起業機会は市場に「既に存在し」、認知能力と情報に優れた起業家によって「発見される」。シュンペーターが論じた創造的破壊のプロセスが外生的ショックを生み出し、そのショックが客観的機会を創出する——このロジックが、Shane型機会発見論(discovery view)の骨格をなす(Shane, 2003)。

エフェクチュエーション理論との理論的緊張

Sarasvathy(2001; 2008)が論じたエフェクチュエーション理論は、Shane型機会発見論に対する鮮明な対案を提示している。

機会は発見されるのか、創造されるのか

Sarasvathyが熟達起業家のプロトコル分析から帰納した結論は、起業家は外部に存在する機会を発見するのではなく、手持ちの手段とパートナーとのコミットメントの蓄積を通じて機会そのものを創造・構築するというものであった(Sarasvathy, 2008, pp. 67–82)。

この「機会創造論(creation view)」と「機会発見論(discovery view)」の対立は、2000年代を通じて起業家研究の中心的論争となった。Venkataraman, Sarasvathy, Dew & Forster(2012)がAcademy of Management Review, 37(1), 21–33で発表した「Whither the Promise?」論文は、この論争にエフェクチュエーション側から応答した代表的論考である。彼らはSarasvathyの恩師Venkataraman自身が、機会発見論から距離を置き、「人工物の科学としての起業家精神」という新しい枠組みへと論を進化させたことを示した。

先行知識論への応答

Shane(2003)は、機会の発見を可能にする先行知識の特異性(idiosyncrasy of prior knowledge)を強調した。同じ市場変化に直面しながら、特定の先行知識を持つ個人だけが機会を認識できるという命題は、認知の個人差を機会認識の説明変数として位置づける。

エフェクチュエーション理論は、この先行知識論を否定するのではなく再構成する。熟達起業家のシンク・アラウド実験が示したのは、彼らが「市場に存在する機会を見抜く能力」を競っているのではなく、「今持っている知識・人脈・リソース(Who I am, What I know, Whom I know)を出発点として、行動可能な可能性を構想する」という認知プロセスを踏んでいるという事実だった(Sarasvathy, 2001, p. 245)。先行知識の「発見への適合性」ではなく、先行知識の「構築的再利用」が熟達の核心にある、というのがエフェクチュエーション研究の応答である。

Shane研究の現代的位置づけ

Shane型の機会発見論は今日もなお、技術起業家研究(academic entrepreneurship, university spinouts)や政策研究において広く参照される。特定の先行知識が機会認識に与える影響を実証する分野では、ShaneとVenkataraman(2000)のフレームワークが有効な分析枠を提供し続けている。

一方でエフェクチュエーション研究が蓄積されるにつれ、いつ・どのような環境下で、機会発見論が説明力を持ち、いつ機会創造論が妥当するかという境界条件の解明が重要な研究課題となっている。エフェクチュエーションのメタ分析が示したように、技術変化の速い産業や新興国市場ではエフェクチュエーション的行動のパフォーマンスへの効果が強く出る——これは同時に、Shane型の発見論が相対的に適合しにくい環境条件でもある。

ShaneとSarasvathyが共有するのは、起業家の認知プロセスを理論の中心に置くという問題関心である。二人の異なる答えが、アントレプレナーシップ研究の深度を今日に至るまで豊かにしてきた。

この研究者をもっと深く理解するために

出発点はShane & Venkataraman(2000)の原論文である。わずか10ページの論文だが、起業家研究の三問構造がここに圧縮されている。次にShane(2003)の第2章「The Individual-Opportunity Nexus」で機会の客観的先在性という仮定を詳しく検討し、そのうえでSarasvathy(2008)の第1章・第2章と並べて読むと、機会発見論と機会創造論の対立の構図が立体的に浮かぶ。


引用・参考文献

  • Shane, S., & Venkataraman, S. (2000). The promise of entrepreneurship as a field of research. Academy of Management Review, 25(1), 217–226.
  • Shane, S. A. (2003). A General Theory of Entrepreneurship: The Individual-Opportunity Nexus. Edward Elgar Publishing.
  • Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
  • Sarasvathy, S. D. (2008). Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise. Edward Elgar Publishing.
  • Venkataraman, S., Sarasvathy, S. D., Dew, N., & Forster, W. R. (2012). Reflections on the 2010 AMR decade award: Whither the promise? Moving forward with entrepreneurship as a science of the artificial. Academy of Management Review, 37(1), 21–33.