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エフェクチュエーションとブリコラージュの統合フレームワーク——概念的境界の厳密化

Welter et al.(2016)の統合フレームワークを中心に、エフェクチュエーションとブリコラージュの概念的境界を厳密に画定。不確実性vs資源希少性の軸による分類を提示。

約18分
目次

混同から厳密化へ——なぜ概念的境界が問題なのか

エフェクチュエーションとブリコラージュは、いずれも「手持ちの手段から始める」という行動原理を共有する。この表面的な類似性ゆえに、両概念は学術文献において同義に扱われるか、あるいはその境界が曖昧なまま混用されてきた歴史がある。

しかし、概念の混同は理論的にも実務的にも問題をはらむ。異なる環境条件に対応する異なるメカニズムを一つの概念に融合してしまえば、どの状況でどのアプローチが有効かという実践的指針が失われるからである。

この問題に正面から取り組み、認識論的なレベルで概念の境界線を画定したのが、Welter, Mauer, & Wuebker(2016)による研究「Bridging Behavioral Models and Theoretical Concepts: Effectuation and Bricolage in the Opportunity Creation Framework」である。本稿では、この統合フレームワークを中心に据えつつ、Fisher(2012)の行動比較研究の知見を組み込み、3つの概念——機会創造、エフェクチュエーション、ブリコラージュ——の関係構造を厳密に解き明かす。

3概念の起源と前提条件の差異

機会創造(Opportunity Creation)

機会創造の理論は、経済学および戦略論からの演繹的アプローチに根ざしている。人間の行動を通じて製品市場や要素市場の競争的不完全性が内生的に形成されるとする構成主義的視点が、その基盤である(Welter et al., 2016)。

この理論が前提とする環境条件は、ナイトの不確実性(Knightian uncertainty)——結果もその発生確率も事前には全く予測できない状況——である。機会創造は認識論的かつマクロレベルの市場ダイナミクスに焦点を当て、起業家が単に既存の機会に「遭遇」し「発見」するのではなく、自らの行動を通じて機会を内生的に「形成」していくプロセスを記述する(Welter et al., 2016)。

エフェクチュエーション(Effectuation)

エフェクチュエーションは、認知科学的・経験的観察に基盤を持つ。Sarasvathy(2001)が熟練したエキスパート起業家の意思決定プロセスを観察する中で同定した、一連のヒューリスティクス(思考の近道)に基づく行動モデルである。

前提とする環境条件は、**根本的な不確実性(radical uncertainty)および目標の曖昧さ(goal ambiguity)**である。エフェクチュエーションは包括的な認知・意思決定ロジックとして機能し、未来を予測するのではなく、手段とコントロールの確立に焦点を当てる(Welter et al., 2016)。

ブリコラージュ(Bricolage)

ブリコラージュは、文化人類学からのメタファーの応用に由来する。Lévi-Strauss(1962)の概念を Baker & Nelson(2005)が起業家研究に導入し、資源制約がイノベーションを駆動するという観察から理論化された。

前提とする環境条件は、極度な**資源の枯渇・希少性(resource scarcity)**である。利用可能な資源が著しく制限され、低品質あるいは不足している物理的・制度的環境において、現場レベルでの戦術的・実践的な問題解決として発現する(Welter et al., 2016; Baker & Nelson, 2005)。

「不確実性」対「資源希少性」——概念的境界の核心

Welter et al.(2016)の2軸フレームワーク

Welter et al.(2016)のフレームワークが提示する最も重要な理論的貢献は、エフェクチュエーションとブリコラージュの概念的境界を、環境の**「不確実性(uncertainty)」「資源の希少性(resource scarcity)」**という二つの軸によって切り分けた点にある。

エフェクチュエーションの駆動条件は「不確実性」である。 エフェクチュエーションの論理は、未来が予測不可能な場合に駆動する包括的な意思決定モデルである。極端な例として、起業家が豊富な資金や強大な社会的ネットワークを有しており、決して資源が枯渇していなかったとしても、市場の受容性や技術の未来が不透明であれば、予測に依存しないエフェクチュエーションの論理——許容可能な損失の設定、ステークホルダーとの協働——が完全に機能し得る(Welter et al., 2016)。

ブリコラージュの駆動条件は「資源希少性」である。 ブリコラージュは「資源が圧倒的に不足している」という物理的・制度的制約に対する直接的な対抗反応としてトリガーされる。不確実性の高低にかかわらず、手元の資源が乏しいという条件があれば、ブリコラージュ的行動が出現する(Welter et al., 2016; Baker & Nelson, 2005)。

階層的包含関係の確立

この2軸による整理がもたらす最も重要な帰結は、ブリコラージュとエフェクチュエーションの間に階層的な包含関係が成立するという理論的結論である。

Welter et al.(2016)の統合フレームワークにおいて、ブリコラージュは独立した戦略というよりも、**「エフェクチュエーションの思想を実践的・戦術的に運用(operationalize)するための一形態」**として位置づけられている。すなわち、エフェクチュエーションという広範な戦略的パラソルの下で、特に手元の資源が乏しいという条件が重なった場合に発動する現場の戦術がブリコラージュである(Welter et al., 2016)。

この明確化により、3つの概念は不確実性の度合いと資源の制約度合いを変数とした多次元空間において、シームレスに連携するメカニズムとして理解されるようになった。

Fisher(2012)の行動比較——ハイブリッド化の実証

代替テンプレート法による観察

Welter et al.(2016)の概念的整理に先立ち、Fisher(2012)は代替テンプレート(alternative templates)法を用いて、3つの理論に基づく行動が実際の起業家のなかでどのように発現するかを実証的に検証した。

Fisher は、Bird & Schjoedt(2009)の定義に従い、起業活動を「聴衆が観察可能な個人の活動の離散的な単位」として捉え、6つの初期段階ベンチャー企業のケーススタディデータに対して、コーゼーション・エフェクチュエーション・ブリコラージュの3つの理論に基づく行動指標を当てはめて評価した(Fisher, 2012)。

相互排他性の否定

Fisher のケーススタディ分析がもたらした最大の理論的貢献は、これらの理論的視点が決して相互に排他的(mutually exclusive)な対立概念ではないという事実の実証である。同じ新興ベンチャー企業の設立・成長プロセスにおいて、エフェクチュエーションとブリコラージュの行動は、特に資源が枯渇し不確実性が高い初期フェーズにおいて非常に強く現れ、密接に連動していた(Fisher, 2012)。

さらに、起業家は状況の確実性の変化に応じて、因果論とエフェクチュエーション、あるいはブリコラージュを併用する**「両利き(ambidexterity)」の戦略**を採用していることが確認された。Harms & Schiele(2012)や Politis et al.(2010)の研究、また Arvidsson & Coudounaris(2020)のIT分野のケーススタディが支持するように、起業家は初期段階では因果論的ロジックを好むが、現場経験を積むにつれてエフェクチュエーションのロジックを適用するようになる、あるいはその逆の移行を行うというダイナミズムが確認された(Fisher, 2012)。

Bird-in-Hand(人の論理)とブリコラージュ(モノの論理)

焦点の本質的差異

Welter et al.(2016)の2軸フレームワークを補完するもう一つの重要な理論的区別が、エフェクチュエーションの Bird-in-Hand 原則とブリコラージュにおける資源活用の焦点の違いである。

エフェクチュエーションにおける Bird-in-Hand 原則は、物理的な資産よりも起業家自身の内発的な特性に強く根ざしている。「誰であるか(アイデンティティ)」「何を知っているか(知識・経験)」「誰を知っているか(社会的ネットワーク)」という3つの内発的手段がその出発点である(Sarasvathy, 2001)。Bird-in-Hand の論理の焦点は**「人(People)」の論理**に向いている。

対照的に、ブリコラージュは**「モノそのものの論理(the logic of the thing itself)」**に絶対的な重きを置く。ブリコルールが直面するのは、交換可能で均質な汎用リソースではなく、廃棄された部品、老朽化した機械、あるいは法的な隙間といった、それ自体が固有の歴史、偶発性、そして限界を帯びた「断片」である(Baker & Nelson, 2005)。

制約への対応アプローチの分岐

Bird-in-Hand 原則においては、起業家は不確実性をコントロールするために外部のステークホルダーと積極的に関わり、コミットメントを引き出す(Crazy Quilt 原則)。パートナーシップによるリスク共有と、新たなリソースの外部からの引き込みを通じて、制約を希釈化する。資源のパイは人間関係の網の目の広がりとともに拡大していく(Sarasvathy, 2008)。

ブリコラージュにおいては、人間関係の無制限な拡張から創造性が生じるのではなく、目前にある物理的・制度的な断片と深く対話し、その素材が持つ「声なき論理」に耳を傾けながら、限界を「なだめすかして」繋ぎ合わせるプロセスから創造性が生じる。既存の限られた材料の転用と再結合を通じた、内側からの制約突破である(Baker & Nelson, 2005)。

この対比を一言で要約すれば、Bird-in-Hand は「手元にある人的資本・社会関係資本をテコにして、不確実な未来をコントロール可能なパートナーシップの網の目に変える拡張的戦略」であり、ブリコラージュは「手元にある物理的・制度的な断片を、異質な要素のパッチワークによって直接的に解決する局地的戦術」である。

概念的境界の3つの軸——統合的整理

本稿で検討した文献群から導き出される、エフェクチュエーションとブリコラージュの概念的境界は、以下の3つの軸に集約される。

第一の軸:トリガーとなる環境条件。 エフェクチュエーションは予測不可能性(Knightian uncertainty)への認知的対抗策として発現し、ブリコラージュは物理的・制度的な資源枯渇(resource scarcity)に対する実践的対抗策として発現する(Welter et al., 2016)。両方の条件が同時に存在する場合——創業初期にはこれが常態である——には、エフェクチュエーションとブリコラージュが密接に連動する(Fisher, 2012)。

第二の軸:概念の階層性。 エフェクチュエーションが不確実性下における起業家の包括的な意思決定ロジックであるのに対し、ブリコラージュはそのロジックを極度の資源制約下で実行に移すためのミクロな戦術的・操作的メカニズムとして機能する(Welter et al., 2016)。

第三の軸:資源活用の焦点。 Bird-in-Hand 原則が「人やネットワーク」を通じた関係性の構築と資源のパイの拡大を志向する一方、ブリコラージュは「モノや制度の断片」そのものが持つ制約との対話を通じた転用と内製化を志向する(Baker & Nelson, 2005; Sarasvathy, 2001)。

Fisher(2012)が実証したように、優れた起業家は単一のロジックに固執するのではなく、状況に応じて複数のロジックを「両利き」的に使い分ける。不確実性と資源制約が常態化する経営環境において、これらの概念を混同することなく、それぞれの境界条件を正確に理解したうえで文脈に応じた行動のハイブリッド化を設計することが、新興企業の持続的な成長を実現するための理論的基盤となる。

関連記事として「エフェクチュエーション vs ブリコラージュ」「Baker & Nelsonのブリコラージュ研究」も参照されたい。


参考文献

  • Welter, C., Mauer, R., & Wuebker, R. J. (2016). Bridging behavioral models and theoretical concepts: Effectuation and bricolage in the opportunity creation framework. Strategic Entrepreneurship Journal, 10(1), 5–20.
  • Fisher, G. (2012). Effectuation, causation, and bricolage: A behavioral comparison of emerging theories in entrepreneurship research. Entrepreneurship Theory and Practice, 36(5), 1019–1051.
  • Baker, T., & Nelson, R. E. (2005). Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage. Administrative Science Quarterly, 50(3), 329–366.
  • Lévi-Strauss, C. (1962). La pensée sauvage. Plon. (English translation: The Savage Mind. University of Chicago Press, 1966)
  • Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
  • Sarasvathy, S. D. (2008). Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise. Edward Elgar Publishing.
  • Harms, R., & Schiele, H. (2012). Antecedents and consequences of effectuation and causation in the international new venture creation process. Journal of International Entrepreneurship, 10(2), 95–116.
  • Politis, D., Winborg, J., & Dahlstrand, Å. L. (2010). Exploring the resource logic of student entrepreneurs. International Small Business Journal, 30(6), 659–683.
  • Arvidsson, H. G., & Coudounaris, D. N. (2020). Effectuation versus causation: A case study of an IT platform born global start-up from Sweden. International Journal of Entrepreneurship and Small Business, 41(3), 370–392.
  • Senyard, J., Baker, T., Steffens, P., & Davidsson, P. (2014). Bricolage as a path to innovativeness for resource-constrained new firms. Journal of Product Innovation Management, 31(2), 211–230.

参考書籍

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