用語集

ブリコラージュ

手元にある限られた資源を組み合わせることで問題を解決・機会を創出する起業家的行動様式。Lévi-Strauss(1962)の人類学的概念を Baker & Nelson(2005)が経営学に導入した。エフェクチュエーションの「手中の鳥」原則と深く関連する。

目次

ぶりこらーじゅ

Bricolage起業的ブリコラージュEntrepreneurial Bricolage

ブリコラージュとは何か

ブリコラージュ(bricolage)とは、「手元にあるもので何とかする」という知的・実践的態度を指す概念である。語源はフランス語の動詞 bricoler(寄せ集めで修繕する)に由来し、「既成の目的とは異なる文脈で資源を転用する」という行為を含意する。

この概念を学術的に定式化したのは、フランスの構造主義人類学者 Claude Lévi-Strauss である。1962年に刊行した『野生の思考(La pensée sauvage)』において、Lévi-Strauss は「ブリコルール(bricoleur:器用人)」と「エンジニア(engineer:技師)」という二つの思考様式の対比を提示した(Lévi-Strauss, 1962, pp. 16–22)。

エンジニアは目標を先に設定し、その達成に必要な素材・道具を外部から調達する。目標から手段へと演繹的に進む、コーゼーション的な思考の体現者である。ブリコルールは、手元に蓄積された不揃いな断片——本来は別の用途のために存在していた「残り物」——を出発点とし、これを新しい方法で組み合わせることで目前の課題に対処する。手段から目標へと帰納的に進む姿勢がその本質である。

経営学への導入:Baker & Nelson(2005)

Lévi-Strauss の概念を起業家研究に導入し、経営学的な実証理論として確立したのが Baker & Nelson(2005)の研究「Creating Something from Nothing: Resource Construction through Entrepreneurial Bricolage」(Administrative Science Quarterly, 50(3), 329–366)である。

Baker & Nelson は、29の小規模ベンチャー企業を対象とした縦断的フィールドワークを通じて、起業的ブリコラージュ(Entrepreneurial Bricolage)を次のように定義した。

手持ちの資源の組み合わせを新しい問題や機会に適用し、何とかやり遂げること(making do by applying combinations of the resources at hand to new problems and opportunities)(Baker & Nelson, 2005, p. 333)

この定義の核心にある「hands at hand(手元の資源)」という概念は、主流市場が「無価値・時代遅れ・規格外」として拒絶したインプットを、起業家が独自の視点で再評価し創造的に転用するという資源観を前提とする。資源は客観的に固定されたものではなく、社会的に構築されるという立場である。

エフェクチュエーションとの関係:共鳴と差異

ブリコラージュとエフェクチュエーションは、しばしば「似た概念」として並置されるが、その関係は単純な同義ではない。

共鳴する点は明確である。Sarasvathy(2001)が示した手中の鳥(Bird-in-Hand)原則——「Who I am / What I know / Whom I know という手持ちの手段から出発する」——は、ブリコラージュの「means at hand(手元の手段)」という発想と構造的に対応する。どちらも「目標から手段を逆算するコーゼーション的思考への対抗原理」という位置づけで機能する。Sarasvathy(2001)自身もこの系譜を意識しており、エフェクチュアルな起業家の行動様式がブリコルール的知性の観察から着想を得ていることを示唆している(p. 245)。

差異も重要である。ブリコラージュは主として「資源の転用・組み合わせ」という行動に焦点を当て、既存資源のクリエイティブな再利用を中心概念とする。エフェクチュエーションはより広い意思決定フレームワークであり、許容可能な損失・クレイジーキルト(ステークホルダーとのコミットメント形成)・レモネード(予期せぬ出来事の機会化)・飛行機のパイロット(予測より制御)という4つの原則を加えた体系として構成される。

Sarasvathy & Dew(2005)は、エフェクチュエーションをブリコラージュよりも広い「制度的・認知的」なフレームワークとして位置づけ、両概念の境界を論じている(Sarasvathy & Dew, 2005)。一方で Fisher(2012)は、両概念が経験的に重複する部分が大きいことを実証的に確認しており、区別よりも相互補完的な理解が有益だと主張する。

実務での活用

ブリコラージュの概念は、リソース制約下での問題解決に直面するあらゆる組織に適用できる。

「手元にあるもので始める」という実践の第一歩は、「今使えるが使っていないものは何か」という問いから始まることである。廃棄予定の機器・利用されていない社内スキル・眠ったままの人脈・公開されているオープンソースソフトウェア——これらはブリコルール的な視点から見れば、新しい組み合わせの素材である。

なお、Baker & Nelson(2005)は「ブリコラージュの罠(bricolage trap)」も指摘している。手元の資源への固執が、より大きな資源を調達する機会を見逃す原因になり得る点である。ブリコラージュはあらゆる状況で最適な戦略ではなく、資源制約が厳しく・不確実性が高く・行動の即時性が求められる状況において特に有効な発想法である。


関連項目


引用・参考文献

  • Lévi-Strauss, C. (1962). La pensée sauvage. Plon. (邦訳:レヴィ=ストロース著、大橋保夫訳(1976).『野生の思考』みすず書房.)
  • Baker, T., & Nelson, R. E. (2005). Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage. Administrative Science Quarterly, 50(3), 329–366.
  • Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
  • Sarasvathy, S. D., & Dew, N. (2005). New market creation through transformation. Journal of Evolutionary Economics, 15(5), 533–565.
  • Fisher, G. (2012). Effectuation, causation, and bricolage: A behavioral comparison of emerging theories in entrepreneurship research. Entrepreneurship Theory and Practice, 36(5), 1019–1051.

関連用語

bird-in-hand means-at-hand effectuation