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サイボウズ——離婚という「レモネード」が生んだ「100人100通り」の働き方
離職率を下げるために、御社はどんな制度を足してきただろうか。時短勤務、リモートワーク、副業許可——並べれば並べるほど、選択肢のメニューは増えていく。それでも離職率が下がらない企業は多い。
メニューを増やす前に問うべきことがある。その選択肢を「誰が用意しているか」だ。
危機の正体は、前提そのものにあった
サイボウズは2000年代半ば、離職率の高止まりに悩んでいた。グループウェアという成長市場にいながら、人が定着しない。当時の対策は他の多くの企業と同じく、休暇制度や福利厚生を一つずつ足していくものだったが、効果は乏しかった。
転機になったのは、創業者である青野慶久氏自身が経験した離婚だった。氏は後年、この経験を講演やインタビューで繰り返し語っている。仕事に生活のすべてを合わせてきた結果として家庭が壊れたという個人的な危機が、「働き方は会社が決めるもの」という、それまで疑ってこなかった前提そのものへの問い直しにつながった。
これはエフェクチュエーションでいう「レモネードの原則」——手中の不運(negative event)を、手中の鳥として活用可能な資源に転じる発想——の日本企業における実例として読める。海外の事例で語られることの多いこの原則が、離婚という極めて個人的な出来事を起点に組織設計へ結実したケースは珍しい。
「選択肢を配る」から「制約を申告させる」へ
サイボウズが行き着いた「100人100通りの働き方」は、設計思想そのものの転換だった。
従来の働き方改革の多くは、会社が用意した数パターンの選択肢(フルタイム/時短/リモートなど)から、社員が選ぶという構造を取る。サイボウズが変えたのは、この主導権の所在だった。働き方の型を会社が事前に用意するのではなく、社員一人ひとりが抱える制約(育児・介護・キャリア観など)を本人が申告し、それに基づいて働き方を組み立てる方式へと転換した。複業の許可や在宅選択制は、この転換の結果として生まれた個別の制度にすぎない。
会社が持っていた「働き方を決める」という決定権の一部を、社員本人に渡す。LEGOがユーザーに製品採否の決定権を渡したのと同じ構造の権限移譲が、ここでも起きている。
個人的な危機を、組織設計の起点にする
サイボウズの経緯が示すのは、離職率という経営指標の改善が、制度の数を増やすことでは達成されなかったという事実だ。効果を生んだのは、「働き方は会社が決めるもの」という前提そのものを壊す設計転換だった。
- 新しい制度を検討するとき、それは選択肢を”足す”設計か、それとも前提を”壊す”設計か
- 社員に配っているのは、会社が用意したメニューか、それとも制約を申告する余地か
- 経営指標の改善を、制度の数ではなく決定権の所在で測れているか
自社の次の制度設計で、この問いをどこか一段だけでも当ててみる価値はある。
制度を足すのではなく、前提を壊す。次にその決断を迫られるのは、危機が訪れたときかもしれない。サイボウズの経緯は、その危機をどう扱うかという一つの選択肢を示している。