目次
事業計画から入ると、最初の一歩が遠くなる
副業を考え始めた人が最初にやりがちなのは、市場を調べ、競合を並べ、売上の見込みを表にすることだ。ところが、その表を作り終える前に、多くの人は手が止まる。調べるほど、不確かな前提が増えていくからだ。
理由は単純で、副業は本業と違って使える時間が少なく、市場の反応もまだ見えていない。見えていない反応を予測して計画に書いても、外れたときの修正に使える時間が残らない。
エフェクチュエーションは、起業家の意思決定を研究したサラスバシーが提唱した理論で、目標から逆算するのではなく、手元にあるものから出発する。この記事では、その5原則を使って、副業の最初の90日を設計する。目的は副業を成功させることではなく、90日後に「続けるか、形を変えるか、やめるか」を判断できる材料を手に入れることだ。
5原則の全体像はエフェクチュエーションのサイクルにまとめてある。
1〜2週目:手段を棚卸しして、最初の候補を3つ出す
最初の2週間は、何も売らない。やるのは手段の棚卸しだけだ。手中の鳥の原則では、手段を3つに分ける(詳しくは手中の鳥の原則)。
- 自分は誰か:本業での役割、資格、性格、好きなこと、避けたいこと
- 何を知っているか:業界の知識、使える道具、人に教えられること
- 誰を知っているか:頼めば話を聞いてくれる人、同じ悩みを持つ人
書き出したら、組み合わせを考える。「経理の経験」と「小さな店の知り合い」があるなら、「小規模事業者向けの帳簿の整え方」という候補が出る。市場の大きさはまだ調べない。手段の組み合わせから出た候補を3つ並べるところまでで足りる。
ここで大事なのは、やりたいことを先に決めないことだ。やりたいことから始めると、足りない手段ばかりが目につき、最初の一歩が重くなる。棚卸しの具体的なやり方は手中の鳥の棚卸しに書いた。
3週目:賭ける上限を、先に決める
候補が出たら、動く前に上限を決める。許容可能な損失の原則だ(許容可能な損失の原則)。
副業の場合、賭けるものは主に3つある。
| 賭けるもの | 先に決める上限の例 |
|---|---|
| 時間 | 平日は週2晩・各1.5時間、休日は月2回まで |
| お金 | 90日で合計3万円まで。超える場合は一度止めて見直す |
| 信用 | 本業の同僚や取引先には、まだ伝えない |
上限は「儲かりそうか」ではなく「失っても生活と本業が崩れないか」で決める。期待リターンの大きさは上限の根拠にしない。ここを逆にすると、当たりそうな候補ほど大きく賭けてしまい、外れたときに本業の評価や睡眠を削る羽目に陥る。
本業の就業規則で副業が制限されていないかも、この段階で確認する。信用を失う賭けは、上限を決める以前の問題だ。
4〜8週目:小さく出して、約束してくれる人を探す
次の5週間は、候補を小さく外に出す。この期間のゴールは、候補を一言で説明して、相手の反応をもらうことに置く。
- 知人に「こういうことを手伝えます」と1通のメッセージで伝える
- 小さな相談を、無料または実費で1件受ける
- 同じ分野の人が集まる場に1回顔を出す
ここで探しているのは、買ってくれる人というより、自発的に関わってくれる人だ。クレイジーキルトの原則では、事前に市場を定義するのではなく、関わると約束してくれた人との間で事業の形を決めていく(クレイジーキルトの原則)。
「面白いですね」と言った人は、約束していない。「来月、試しに頼んでみたい」と言った人が、最初の約束だ。約束が1件でも生まれたら、その人が何に困っているかを聞き、候補の形を相手に合わせて変える。3つの候補のうち、約束が生まれたものだけが次へ進む。
9〜12週目:想定外を捨てずに、次の形に使う
小さく出していると、想定外のことが必ず起きる。頼んだ相手から、考えていた用途とは別の相談が来る。作った資料が、思わぬ場所で役に立つ。
レモネードの原則は、こうした想定外を失敗として片づけず、機会として使う考え方だ(レモネードの原則)。90日の終わりに近づいたら、想定外だった出来事を一覧にして、次の問いで見直す。
- 予定になかった相談や依頼は何件あったか
- その中で、自分が苦なくこなせたものはどれか
- その依頼者は、また頼みたいと言ったか
最初に出した候補ではなく、想定外から来た依頼のほうが続けやすいことは珍しくない。その場合は、候補を差し替えてよい。計画を守ることは目的ではない。
毎週の運転:パイロットの視点で舵を握る
90日を通して、舵を握るのは自分だ。飛行機のパイロットの原則は、自分の行動で状況を変えていく考え方だ(飛行機のパイロットの原則)。
具体的には、週に一度、次の3行だけ記録する。
- 今週、手段は何が増えたか
- 賭けた量は上限の範囲だったか
- 来週、誰に何を持ちかけるか
記録の型はエフェクチュエーションの週次ふりかえりに詳しい。
90日後の判断:続ける、形を変える、やめる
90日が終わったら、材料を並べて決める。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 約束してくれた人がいて、上限の範囲で続けられる | 続ける。次の90日は上限を少し上げてよい |
| 約束は生まれたが、候補の形が合わない | 想定外の依頼に寄せて、形を変える |
| 約束が生まれず、手段も増えなかった | やめる。使った時間と金額は上限の内側なので、損失は織り込み済み |
やめる判断も、結果の一つだ。上限を先に決めていれば、やめたときに残る傷が小さい。これが、この進め方で守っているものである。
まとめ
副業の最初の90日は、事業計画ではなく、手元の手段、賭ける上限、約束してくれる人、想定外の扱いという4つの材料で組み立てられる。
- 1〜2週目に手段を棚卸しして、候補を3つ出す
- 3週目に時間・お金・信用の上限を決める
- 4〜8週目に小さく出して、約束してくれる人を探す
- 9〜12週目に想定外を見直して、形を差し替える
- 90日後に、続ける・変える・やめるを決める
キャリア全体への応用はエフェクチュエーション キャリア設計で扱っている。